最近、自宅玄関わきの洋間にある私のパソコンデスクには一冊の本が置かれている。題名は「原子力公害―人類の未来をおびやかすもの」著者はアーサー・タンブリン博士とジョン・ゴフマン教授で、アグネ社から1974年に出版されている。
この本の監訳者はカバのいた東北大学選鉱精錬研究所の製銑研究室の徳田助教授(当時)であった。徳田先生はいまは名誉教授だが、いまなお魚介類の廃棄物から金属を取り出す公害機器の開発に携わっている。翻訳は徳田先生を中心に、東北大学G&T翻訳グループ(主に東北大学工学部の原子核工学、金属工学からなる)という若手の助手・大学院生が翻訳している。この中には、翻訳作業の時、カバと同じ修士課程の大学院生だった小出裕章さんや、当時助手でのちに東北大学教授になり現在名誉教授の北村正晴(北村さんはカバが公募委員となった青森県原子力政策懇話会の専門家委員でもあった)さんもいた。
この本の内容は、低線量放射線被曝による健康被害の権威である両著者の前書きとスタンフォード大学のポール・エーリック教授の序言を読めばほぼ理解できると思う。
まず、エーリック教授は、「著者たち自身が専門としている低線量放射線による健康への脅威は、人類が直面している最も深刻な問題の一つであろう。ゴフマンとタンプリン両博士がすべてにわたって詳細に述べているように、この脅威には、いくら強調しても足りないくらいのいくつかの側面がある。第一は、放射線被曝の生物的な影響が最初に現れるのが実際に放射線をあびてからたくさんの時間を経てからかもしれないという点である。この現象は、「費用対効果」の分析において、常に原子力推進側に有利だった。効果(たとえば電力)はすぐにえられるだろうが、費用(被曝が原因の死亡者にかかる)は数十年経ってもわからないかもしれない。しかも、(疫学的)統計が不十分で、他にも考えられそうな原因があれば、なおさらわかりにくいであろう。しかし、死者の数が多くなって、誰の目にも原因が明らかになった時点では、そでに損害は回復不可能なのである。数百万、おそらく数億の人々がすでに取り消すことのできない放射線をあびているだろう」と。
また、エーリック教授は序言でさらに次のようにも指摘している。「あるきまった量の放射線を被曝した時に、人間の生命の形で支払わなければならない代償はどのくらいになるのか。どれほどの利益が、どんな便宜が、またどんな経済的要求が、その特定の生命の損失に見合うのかについて、公衆が何らかの発言権をもつべきではないのか」
著者の前書きは以下のとおりである。
「人類は、私たちの惑星、地球を脅かしている環境危機の解決をせまられている。私たちは人類がその直面している問題の大きさを知るならば、その解決を成し遂げることができると楽観的に考えている。まず、最初にすべきことは、現在どれほど悲しむべき状態になってしまっているかを理解することである。次に、この環境危機の解決を妨げている力を正しく認識しなければならない。そうすれば最後には、入り込んでしまった泥沼から私たちを導き出してくれる方法をつかむことができるだろう。本書の大部分は、原子力技術とそれに関連したとりかえしのつかない地球の核汚染を扱っている。このことは、私たちの個人的な経験に多く負っている。私たちは、核汚染から公衆の健康を守ろうと努めた私たち自身の経験を通して、環境危機の本質を学んできた。核汚染から学んだ教訓は、一般的なものであり、現代の科学や技術によって生み出された環境危機のすべての面に同様に適用することができる。私たちの経験と知識が、人類の直面している危機的な環境問題の建設的な解決に役立つことを切に望むものである。」
最後に、この本の目次を紹介しよう。
第1章 なぜ私たちは証言するか
第2章 放射線の生物学的影響
第3章 原子力公害の花形騎士
第4章 将来の汚染に対する防護策
第5章 原子力委員会との戦い
第6章 コロラド高原の悲劇
第7章 原子炉をめぐって
第8章 処理できない放射性廃棄物
第9章 プルトニウム―公衆の健康と技術のおごり
第10章 核兵器計画
第11章 科学と科学者の倫理と社会的責任
第12章 生き延びるための緊急方策
各章の題名を見ただけで、読んでみたくなる内容だ。政府も東電もあいかわずノウ天気だ。約40年前にゴフマン教授らが、今日の福島原発事故を予言していたのだ。放出された放射能、放射線によって被曝した福島県民、日本人、ひいては同時代の世界中の人類が何代にもまたがって大きな負の遺産をかかえて生きていかねばならないことになった。
福島原発事故によって、福島が、日本が、そして人類が直面している食物連鎖による経口低線量放射線被曝の悲劇が今後数十年にわたって予想される。これに対し、まずとるべき対応として、かつて両博士がアメリカで提唱した「五年間の原子力発電所運転及び建設の一時全面停止と、また同時に放射線の許容基準の引き下げ」を行い、すべての科学者が力を合わせて、この人類の危機の打開に向けて誠実に対応するしかないのである。さらに著者らは、「これからただちにやるべきことは、大衆と議会が、科学・技術に対してもっている過剰な信頼感をぬぐい去り、焦点を適正にしぼることである。反対の立場に立っている科学者たちのグループは、どのように、そしてなぜ科学・技術が、社会の諸要求にこたえそこなっているのかを示す必要がある。科学・技術はそのような諸要求にこたえないばかりか、問題をまったく混乱させている」と傾聴に値する方策も提起している。

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