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2011年8月2日火曜日

浜町の教会

 カバの小中高校の友人にT君がいる。そのT君の父は、有名な新聞記者で「忘れがたき故郷の片々」という随筆集を残している。カバの座右の書のひとつだ。そのなかに「浜町の教会」という一節がある。カバの生家のことにもふれているので紹介したい。
 「青森市浜町六丁目(現在本町四丁目)のカトリック教会の正面の塔の中に白いマリア像があった。コバルト色の壁を背にしているので浮かびあがって見えた。子供たちが教会前の芝生や花壇のある前庭を遊び場にしたり、絵を描いたりした。外人の神父さんは姿勢が正しく威厳を感じさせたが、庭に入っても叱ることはなかった。四月の復活祭には赤や青で彩色したゆで卵を、Xマスにはパンやお菓子や筆入れなどをくれた。
 教会の聖堂に入ると窓の縦長のステンドグラスの美しさに驚く。赤、青、黄、緑、橙色などの模様は樹木や花や小鳥を描いており、日が射すと、それが一層きれいで、そこにマリアさまが現れても何も不自然ではないような神々しさを感じさせた。
 夏になると教会の花壇には薄い色紙のような罌粟の花が咲いた。教会裏は広い空き地になっていて、夏の終わりごろ赤まんまが咲き乱れ、秋になるとたくさんの蟋蟀が鳴きだす。星の降るような夜は蟋蟀の声が地上からも中空からもきこえてくるような錯覚をおぼえるほど賑やかな虫の声で満ちた。カトリック教会の向かい側の角が千歳屋。千歳屋に並んで俥屋、提灯屋、芸者長屋がつづいていた。また教会の東隣りは芸者置き屋の「江戸川」、それから鎌重商店になる。
 千歳屋の前の道路に大きな桐の木があった。ここに立つと右手に高く積み上げた千歳屋の下駄材置き場と専売局の塩倉庫があり、その向こうに海が見えた。昼どきの浜町はもともと静かな通りだが、芸者長屋や置き屋からはおさらいの三味線がきこえた。道の中ほどを流れている小川に沿った柳並木の葉が散るころは昼の三味線の音が、いっそう花柳街らしい情緒をただよわせる。
 夕刻、お座敷のかかった妓は俥で行く。どの妓もやや斜めに浅く腰を掛け、俥が走りだすとくびをかくかくと振りながら揺られていくのである。」
 これが昔の浜町の風情である。カバの家は、カトリック教会の向かいの提灯屋だった。千歳屋、俥屋、提灯屋、そして芸者長屋が続いていた。いまはみなもうない。跡形もない。しかし、向かいのカトリック教会とマリア像はそのままだ。ステンドグラスも外から覗くことができる。桐の木がないのが残念だ。

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