過去 1 週間のページビュー

2011年8月1日月曜日

ソーラーとハイブリット

 カバは09年6月1日で33年と2カ月勤めた職場を退職し、翌日役所に引き抜かれた。前の職場の退職金で雨漏りのする家の屋根を取り替え、その上にソーラーパネルを設置した。太陽光パネルは10年の3月に設置され、4月から発電と売電を開始した。4月と5月は買電の方が、売電を上回ったが、6月から8月までは逆転した。一年のうち、確実に3カ月は電力会社へ電気料金以上に自家発電の電気を売っているのは気持ちがいい。1年経ったが、パネルは相変わらず発電を続けている。
 公務員の60歳定年制にあわせ、カバは昨年3月末で任期終了ということで役所を辞め、そのまま同じ部署に嘱託職員として再任用された。副参事という肩書はなくなり、給料も3分の1になった。不満は何もなかったが、何か自分だけが恵まれすぎているような気がしたのと、60歳になったら自分の好きなことをして人生を全うしたい気持ちも正直言ってあった。それに、確かに年金制度の改悪の見返りである再任用制度が、逆に若い人の就職難に拍車をかけているのではないか、という思いも重なっていた。
 60歳になり、定年後の再任用の話もまとまった段階で、カバは二つのことを実行しようと考えた。それは、前の職場からもらった退職金の一部を自分の好きなように使おうということだった。一つは、太陽光パネルの設置で、もう一つはハイブリット車の購入だった。原発反対を組合活動や市民運動で貫いてきた自分が、役所に入ってできることといえばそれぐらいだった。
 太陽光パネル設置には、国と市から助成があった。その手続きはけっこう面倒だったが、どうにか年度内に設置にこぎつけることができた。費用の一割弱程度の補助金ももらった。もうひとつのハイブリット車の購入の方もエコ支援とかで、税金やいくつかの援助助成制度があったが、結局、申し込んでから半年後に希望の車が手に入った。去年の5月の連休明けに黒のハイブリット車が家に届いたときの満足感はこれまでに味わったことのないものだった。リッター9キロくらいだったのが、25キロになっただけでなく、焦ってスピードを出さなくてもいいんだという気持ちに余裕ができたのも事実だった。
 6月に入って、日々のソーラー発電のデータで売電が買電を上回るようになると今度はハイブリット車でのんびり旅行にでかけたいという思いがこみあげてきた。再任用は週4日の勤務で、毎週金曜日から3連休とはいえ、月曜日から木曜日まで朝七時にでかけ、残業はしないといっても家に帰ればぐったりしていて、金曜日に車で出かけようという気持ちにはなれないでいた。
 再任用の仕事に見切りをつけようという気持ちを形にするには、なにかのきっかけが必要だった。その一つは61歳という年齢に達する誕生日だった。丁度その頃、飛び込んできたのは中国の大学で日本語教師をやらないかという話だった。中国語をまったく話せないばかりか、国語教師の資格も経験もないカバなので、半信半疑だったが、先方の大学の日本語学科が9月からの新学期の教師不足でよっぽど困っていたのか、大学の理事会で採用を決めたからとにかく来てくれと6月下旬に通知してきた。あわてて6月末日に7月いっぱいでの辞表を提出して、一年二カ月に及んだ公務員生活を閉じたのだった。
 そんなわけで、ハイブリット車はほとんど乗らないまま、車庫にしまってカバは単身、日本海を越えて満洲の長春へ向かったのだった。
 中国と言うところは、外国人であれ、中国人であれ、政治体制は共産党一党支配の社会主義国だといっているわりには労働基本権はまったくなしで、社会保障どころか社会福祉もへったくれもない国のようで、病気になったらおしまいという具合だった。医療保険がないのだ。しかも、とにかく人が多く、街中では知らない人を見たら泥棒と思えという具合に犯罪が多いのだ。それに、カバの行った大学は私立大学で、学問よりも、如何に学生の親たちから学費以外に金を集めるかに汲々としているようで、朝令暮改が当たり前だった。大学も役所も袖の下が当たり前で、実権を握っている人たちは給料よりもリベートの収入の方が多いというのが実態だった。
 民間企業についても、政治批判や共産党一党支配に反対しなければ、いくらでも自由に金もうけしていいシステムで、許認可をあたえる監督官庁の役人(共産党員)は給料の何倍ものリベートをもらって優雅に暮らすということで成り立っている国家なのだ。
 大概の中国の子どもは、高校から全寮制の学校に入り、大学はもちろん高校3年の6月の全国共通テストで大学へ振り分けられるのだ。大学ごとの入学試験などないのだ。しかも、社会(政治学)の配点が35%をしめるので、国家に忠誠を誓う者でなければ、いい大学にも進めないということにもなるのだ。共産党の下部組織の共産主義青年団は小学校からあるというから凄い。マスコミや文学、そしてインターネットの書き込みなども、政治批判や共産党批判をのぞけば自由なのだが、ひとたび琴線に触れると職を失い、さらにひどくなると投獄されるか国外追放となるのだ。中国人の民族性とこれまでの歴史をみれば、中国共産党と人民解放軍が一体となってそれぐらいやらなければ13億7千万人の人口をまとめきれないのだ。中国が民主化したとすれば、あの大国にうずまくおびただしい数の大衆がいっきょにあちこちで暴動を起こし、収拾のつかない事態になるというのは中国で生活したことのある人ならみなわかるはずだ。
 労働者保護や労働者の労働基本権のない中国にあって、社会保障と社会福祉の充実が今後の最大の課題となることは必定だが、その陰で環境保護や保全とともに再生可能なエネルギーへの傾斜よりも、効率と利益優先の市場原理にもとづく経済発展への志向が中国全土への高速鉄道網の整備と原発積極推進にあることは間違いがない。そんな矢先の温州での高速鉄道の事故だった。つぎは、原発事故が起こらないことを祈りたい。
 カバは外はいくら厳寒でも、部屋が暖かければ我慢もできたが、部屋でも防寒着を着なければならず、授業中も学生がコートを羽織り、お茶のポットを暖房替わりにして我慢しているのをみて、ほんとうにかわいそうだと思った。漆黒の夜空に輝く星までが凍るマイナス39℃の体感温度を経験して、135人の教え子に未練を残しつつカバは4カ月で満洲体験を切り上げた。
 いまカバは青森の家で62歳の誕生日を迎え、毎日、ソーラーパネルの発電実績の表示盤を眺めながら、ハイブリッド車で一般道をゆっくり走りながら日本中をまわる計画をたてている。

0 件のコメント: