カバは中国からの帰国者とその家族、すなわち中国語を母語としていた日本人たちへの日本語学習支援プログラムに賛同し、青森市で行っている「ふれあい教室」へボランティアで日本語を教えている。それは、カバが2年前、長春の大学で日本語科の中国人学生に日本語を教える機会があって、中国政府と中国の人たちにお世話になったからだ。その感謝の気持ちの一端をしめすためと、中国から帰国して、中国の歴史の他、孔子の論語や魯迅の著作の理解のためには、どうしても中国語の勉強が必要だと考え、なるべく中国語を母国語とする人たちとの交流も必要だと考えるようになったからだった。
昨年から始めたボランティアも今年度も続けることになり、今日がその新年度の最初の教室となった。「始めてみよう、話してみよう」という教科書も新しくなり、急に難しくなっていた。私がかつて教えていたのは大学生で、しかも外国語学部の日本語専攻の学生たちで、中国語を一切使わないで授業してもいいということで、学生がわかろうが、わかるまいが、すべて日本語で説明し、解説した。それでも何とか理解し、ついてきてくれる学生もたくさんいた。
しかし、「ふれあい教室」の帰国者の人たちは、いろいろな事情で、中国各地で中国語を母国語としながらも、日本語はもちろん、中国語でさえ高等教育を受けていない人ばかりである。そうした人たちに理解してもらうためには、とても難しい教科書だった。
カバは、自分の中国語の理解度にあわせ、たどたどしい発音で中国語での翻訳をしながら、ゆっくりゆっくり例文を何度も音読することを繰り返した。発音より、文章、構文を意味がわかる範囲で、ゆっくり一音、一語ずつはっきり、ゆっくり口に出すことをお願いした。ゆっくり話せば、どんな日本人でも多少発音やアクセントが違っていても理解してくれるからだ。
途中、お菓子とお茶で休憩しながら、1時間40分の教室を終えることができた。終わりがけに、教室の中では比較的若い方の女性から、「今日の授業が、いままででいちばんよかった」と何気なく言われ、隣の女性たちも笑顔で頷いていたので、ほっとしたのだった。
私の隣で、私の説明を一言ももらさず、丁寧に中国語に翻訳してくれた蘇州からきた留学生周君ともがっちり握手して、新年度1回目の教室を終えたのだった。団地の集会所をでたとき、冷たいヤマセの雨が降っていたが、何故かカバの心は晴れて、温かかった。
カバは周君から自分の中国語の発音を直してもらい、中国語の勉強にもなった。得をした気分にもなったのだ。

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