カバは明らかに高所恐怖症である。高校のとき、水泳部だったので、スタートでプールに飛び込む時の快感と恐怖心をいまでもはっきりと覚えているし、その頃から橋から下を流れる川を覗くと無性に落ちたくなる。吊り橋なんか怖くて渡れやしない。山登りも大変苦労する。登りはともかく、下りは怖くて降りれない。とにかく上を、空しか見上げることができないのだ。
カバの四人の子は、いずれも高い所が好きなのだ。スカイダイビング、バンジージャンプ、ジェットコースターが大好きだった。それが嵩じて、次男はパイロットを志望し、機械工学科でジェットエンジンのマスターを卒業してから航空会社に入り、2年間アメリカで飛行訓練を受けた。帰国後、会社が経営破たんするというどん底も経験し、自社によるパイロット養成が再開されるまで紆余曲折があったものの、雌伏四年間、地上勤務に耐えた結果、とうとう来月には三本線の入った制服制帽姿で空を飛ぶことができるところまでになった。このまま上昇をつづけてほしい。
幼いころ癇性が強く、人とおりあいがつけることが上手でなかった三男は、馬と波長が合うのを自分でみつけ、乗馬に惹かれた。カバは三男から、馬上からの見晴らしの素晴らしさを教えられた。あのときの感動は、初めて飛行機に乗って、雲の上から真っ青な空を見たときと同じだった。生きていることの実感と日常性を超えたところにある驚きからくる感動だった。
カバは、上を見ていると歓びを感じ、下を見ると不安になる性分はいまもずうっと続いているが、これからの残りの人生を、前向きに、しかも、楽しく過ごしていきたいものだと思う。

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